; oi: 7月 2017

2017年7月17日月曜日

今後必要となる量子コンピュータ(量子アニーリング方式)に関する周辺知識まとめ

「量子コンピュータが人工知能を加速する」を読んだ内容と周辺知識を整理した。
近年、注目を浴びている量子コンピュータの実情と今後に興味のある方には、必読の一冊と思う。近いうちにちゃんと勉強する必要が出てくるであろう。


本書は、量子コンピュータの基礎原理の一つである「量子アニーリング」方式の理論を提唱した、西森教授、大関准教授による共著の一冊となっている。

量子アニーリング方式の量子コンピュータは、以前は研究の本流であった量子ゲート方式に比べ、今現在とてつもない脚光を浴びている。

理由を平たくまとめると、解ける問題の幅は狭いが、近年重要な人工知能を下支えする重要な問題に対して適用可能で、従来のコンピュータに比べ、超高速(1億倍)かつ低エネルギー(スパコン京の500分の1)で、比較的安定的に解くことができるのだ。

量子アニーリングとは、組み合わせ最適化問題を解く場合に、量子効果を用いる方法である。まず、目的関数をイジングモデル(2値変数とその関係性の関数)として表現する。この2値変数が上下の向きを持つスピンに相当し、それらが格子状の構造を持っているモデルである。格子状につながっている変数同士は同じ値を保持したほうが、エネルギーが低く安定した状態となる。
次に、このイジングモデルに対して、横磁場をかけることで、スピンを上か下の決まった向きではなく、上下の両方を重ね合わせた状態で持つことが可能となる。これを格子状のすべての変数に対して重ね合わせた状態で持つことで、あらゆる解候補をすべて重ね合わせた状態で持つことに相当する(下図左)。
その後、だんだんと横磁場を弱めていく(上か下かをフィックスさせていく)と同時に、格子状の関係性(相互作用)を強くすることで、重ね合わせの確率分布が変化(下図中央)し、同最適化問題の解を得ることができるのである(下図右)。

Fig.量子アニーリングの概要 (横軸は2値変数の組の取るいろいろな値の組(古典状態),縦軸の黒の曲線は目的関数の値,青の線は各配位の存在確率を表す。)引用元:西森教授の量子アニーリング説明ページ

簡単に、量子アニーリング方式と量子ゲート方式を比較すると以下のような違いとなる。
  • 量子アニーリング方式
    • 組合せ最適化問題に特化
    • 安定:エネルギーが低い状態のみを保持すれば良いため
    • ※カナダのベンチャー起業のD−Wave社が実装した量子コンピュータは同方式
  • 量子ゲート方式 
    • 理論的には汎用的に利用可能
    • 不安定:重ね合わせの状態を保持する必要があるため
詳細は、著者の西森教授による量子アニーリング説明ページをご覧いただきたい。
量子アニーリングの論文やイジングモデルの具体的な定式化例の説明がある。
加えて、下記2つの記事は包括的に量子アニーリングについて説明している
大変有益な記事であった。
  1. 「量子コンピュータが人工知能を加速する」を読んで、数式を使わずにPythonでその概要を説明してみた
    http://qiita.com/onhrs/items/aa0aa181c27743956689
  2. 物理のいらない量子アニーリング入門
    http://blog.brainpad.co.jp/entry/2017/04/20/160000
現実の組み合わせ最適化問題を量子アニーリング方式で扱うためには、イジングモデルという形式に落とし込む必要がある。イジングモデルについては、上記記事にも説明が書かれているが、より直感的な理解を求める方は、以下2つを参照されたい。
  1. Ising Modelを平易に解説してみる
    http://enakai00.hatenablog.com/entry/20150106/1420538321
  2. イジングモデル - KnowledgeBase - 岡山大学理論化学研究室
    http://theochem.chem.okayama-u.ac.jp/wiki/wiki.cgi/exp11?page=%A5%A4%A5%B8%A5%F3%A5%B0%A5%E2%A5%C7%A5%EB
また、私が驚いたのは、D−Wave社のような量子コンピュータのハードウェア企業に加えて、「組み合わせ最適化問題」を量子アニーリング方式で扱う「イジングモデル(量子ビットとその相互作用の組み合わせ)」に変換するのに特化したソフトウェア企業が現れているというのも驚きである。
彼らはhardware-agnostic platforms and services(ハードウェア非依存の基盤とサービス)を適用している。今後、D−Wave社以外の量子アニーリング方式のハードウェアが現れてきても、1QBit社のイジングモデルへの記述方法のナレッジは適用可能である。また、日本独自の量子コンピュータと称される、国立情報学研究所が開発中の「レーザーネットワーク方式」の量子コンピュータもイジングモデルを採用しているため、イジングモデルで記述した問題はそのまま解くことができる。今後、ますます重要な役割を担うであろう。

最後に、現状の日本の量子コンピュータに関する取り組みについては、以下を参照されたい。
  1. 日本独自の量子コンピュータ
    http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20140314/543707/?rt=nocnt
  2. 人工知能に必要な「量子コンピュータ」とは|日本の取り組みと必要スキル
    https://furien.jp/columns/267/
雑多ではあるが、本書を読んで調べた周辺知識のまとめは以上である。
今後も、量子コンピュータ界隈の動向から目を話せないことは間違いない。