; oi: 5月 2016

2016年5月28日土曜日

知的価値で惹く!「甲州」ワイン営業と会話した話(備忘録)

何か理解した気にさせるというのは、原価のかからない価値提供であり、この類の知的価値を求める人は少なくない。先日たまたまお会いしたワイン営業の方は、来場者の目を引き、足を止めることはもちろん、「知的価値」を上手に提供することで、お客さんを惹きつける工夫をされていた。結果、私自身が上手に惹きつけられ、「知的価値」に対する対価という思いもあり、購入に至っていた。

営業の仕方というのは、いろいろあると思うが、商品のメリット(この場合でいうと、ワインの美味しさ)を話すことがオーソドックスな方法だと考えられる。しかしながら、商品の価値だけではなく、今回のように接客時に提供する価値について、フォーカスし、今その時に、どのような価値を提供できるかも非常に重要な営業スキル(購入に至るキッカケ)であると感じた。

本稿では、その際に得られた話の一部を備忘録としてまとめておく。

「甲州」ワインの製法の変化

「甲州」とは日本古来のブドウの品種のことである。しかしながら、この「甲州」によってつくられたワインは、これといって特長がなく、これまであまり人気がなかったそうだ。
1990年代に、フランスで確立されたシュールリー製法を「甲州」ワインに適用することで、飛躍的な成長を遂げたようである。シュール・リー製法とは、ワインの中に澱を残したまま、一冬育成させせ旨味や味の厚みを出す方法である。長年の試行錯誤の後、日本のブドウ「甲州」によってつくられたワインは、いまや世界に勝てるワインへと成長しつつある。

ワインと料理の相性

いまや山梨では、自社農園にて「甲州」はもちろんのこと、「カベルネ・ソーヴィニヨン」や「メルロー」などの海外のブドウも栽培している。日本でこれらの品種を栽培することで、日本の食卓に並ぶ様々な料理と合わせられるようになってきているようだ。
例えば、「カベルネ・ソーヴィニヨン」という品種は、地域差はあるものの、赤ワインの中でも渋くて重めの印象を想起される方も多いだろう。しかしながら、山梨でつくられた「カベルネ・ソーヴィニヨン」ベースの赤ワインは、特に「和食」にあう味わいであった。特に「鶏の照り焼き」や「肉じゃが」といった、フランスの赤ワインだとちょっと違うし、かといって日本酒ともいまひとつ合わないような、和食の料理にぴったりあう印象である。

今回購入したワインのひとつは以下である。

オルロージュ 赤2013年720mlミディアムボディ
株式会社サドヤ醸造 オルロージュ 赤



「ワインの感想は言ったもん勝ち」

さらっと、このように大変興味深いことを話してくれた。以下は私の解釈である。
一般的な感覚であれば、あるワインの味というのは、ソムリエやそれに類する舌の持ち主は誰もが似たような味の説明をするものだ、と思っている(おそらく、あまりズレないのは事実であろう)。しかしながら、実際はワインは色々な味の側面を持つため、大抵の感想がどこかの側面に当てはまることが多い。また、味や香りという極めて主観的な要素を多分に含む。これらの理由から、素人ながらに、率直に感じたことをそのまま言っても、見当違い言葉滅多にないし、否定されることはまずもってない。
このような、ワインの味の特徴から(その他の料理全般言えるかもしれないが、ワインは特に様々な味や香りの要素を含むため。)、ワインの味の感想は先に発言した方が良い、というのが本主張である。誰かの感想のあとにその感想と異なる意見をはっきりと発言するのは気が引けてしまう。対して、先に感想をいう場合は、前述の理由から、大体感想自体は真であり、主観的な要素を否定はされにくいため、好きなことを言えてしまう(言っても特に損しない)
少し味にうるさいお客さんが来た際は「ワインの感想は言ったもん勝ち」は有効に働くそうである。先に色々言われてしまうと収拾をつけるのが困難だからであろう。
このような営業さんの失敗経験や苦労から学ぶことはとても多い。

さいごに


知識というストックから、今まさに対面している相手の知的好奇心をくすぐることは、何もワインの営業に限った話ではなく、日常でコストをかけずに価値提供できることである。自分も楽しく相手の知的好奇心を満せるようになりたいものである。

2016年5月15日日曜日

結婚式に列席して思うこと〜祝福される結婚式にするために〜

投稿の動機

先日、新婦側の列席者の1人として、結婚式に列席した。幸せそうな2人の様子を間近で見られたことで、とても幸せな気分になれたことはとても良かった反面、些か新郎に不安を覚え、結婚相手として、もっと良い人がいたのでは、という考えが何回か脳裏を過ぎったことは紛れもない事実である。

結婚式というお祝いの席で、なぜ、このようなことを考えてしまったのか?この時、どのような論理思考または直感に基づいて、そのような考えにいたってしまったのか?振り返れば、色々な疑問は残る。

新婦側の列席者が良い結婚式であったと自分が判断するための条件や自らの考え方をクリアにすることは、新郎の選び方や結婚式の設計のための一助になると考え、今回文章としてまとめておこうと思うに至った。

本稿では、新婦側の列席者は、結婚式に参加して得られた情報を基にどのような印象を受け、どう感じるかを整理してみる。

考えるための準備

以下に、ある女性を好む男性の分布を表す模式図を示す。x1軸、x2軸というのは列席者が考える結婚相手となる新郎に求める観点を表す。例えば、経済力、学歴、家族の雰囲気、外見、性格などを考えると理解しやすい。また、各軸について一様に分布すると仮定する。本稿においては2次元で表現しているが、実際は様々な軸に基づいた多次元分布となる。

この分布において、比較的多くの男性から好意を寄せられる女性を模したAさん、そうではないBさん、それぞれの獲得領域を破線の円で表す。Aさんは、各観点について、より良い値をとる様々な男性から好まれることを表す。対して、BさんはAさんに比べ、各軸について、より良くない値をとる一部の男性からのみ好意を抱かれることを意味する。



祝福可否の判断軸

これまでの自分の結婚式参加経験をもとに祝福可否の判断軸を整理した。現時点では、要求水準と前述の獲得領域という2つの観点から判断できると考えている。

要求水準

列席者が考える要求水準に対する新郎の位置付けが祝福可否に大きく影響すると考える。各列席者は、自身の経験から、新郎がどのような特徴(経済力、学歴など)であればより良い結婚生活となるかという考えを持っている。各特徴について、最低限必要なレベルを要求水準と定義する。結婚式において知り得た情報をもとに、頭の中でこの要求水準と照らし合わせ、良い相手かどうかを判断していると考えられる。要求水準を満たしていれば、新郎新婦が幸せになるであろうと推論でき、祝福につながる。

獲得領域

前述のように、各女性を好む男性の分布、その女性の獲得領域に置ける新郎の位置付けも重要である。つまり、「女性が多くの男性から好意を寄せられており、多くの良い選択肢が存在するのか」、「一部の男性からのみ好意を抱かれている、選択肢が少ない状況なのか」という違いである。同一の選択肢の場合でも、後者は数少ない選択肢からより良い選択肢を選んだと判断され祝福につながりやすいが、前者は機会損失と捉えられる可能性が少なくない。列席者は、過去の新婦との付き合いや結婚式に参加して得られる新婦の情報をもとに、新婦の獲得領域を推論し、それに対する新郎の位置付けを考えている。

祝福を判断するマトリクス

以上の2つの観点から整理すると以下のマトリクスになる。
新郎の特徴が各列席者が考える要求水準を全て満たす新郎の特徴が各列席者が考える要求水準を満たさない
新婦の特徴によって獲得可能な新郎の特徴の限界値付近である1:心から祝福3:祝福
・不安を感じるが、結婚できないよりは良い。
新婦の特徴によって獲得可能な新郎の特徴の限界値に満たない2:祝福
・勿体無い気がする。
4:祝福?
・釈然としない
・素直に祝福できない
このマトリクスによって判断される例を示す。Aさんの場合は以下の図となる。
いずれの要求水準も満たし、獲得領域の限界付近の新郎の場合、(1)心から祝福となり、要求水準は満たすが、限界付近ではない場合、(2)となる。
また、同様にBさんの場合は以下の図となる。Aさんとの大きな違いは、要求水準は満たしていないが、獲得領域の限界値である場合、結婚できないよりは良いと判断され、祝福されうる。

その他の重要な軸

祝福可否判断のマトリクスを示したが、ここに記述されていないが重要な要素がある。それは、新郎新婦の相性や仲の良さである。先ほどのマトリクスで(4)祝福?となった場合でも、二人の仲の良さが垣間見れた場合は、結婚の必然性を感じ、納得性が高まる。

祝福されるために

以上をもとに祝福される結婚式を考えた場合、列席者の考える要求水準を結婚相手(新郎)が満たすことや獲得領域の限界値付近であることをわかりやすく列席者に伝えることが重要である。その他の手段として、要求水準を下げたり、獲得領域を小さく見せる手段も考えられるが、ネガティブな方法であるため普通行わない。

最後になるが、これまでの経験をまとめたにすぎない。今後色々な結婚式に参加してまた考えが変わった場合は、ブラッシュアップしていこうと思う。





2016年5月14日土曜日

本質の見極めと抽象化による推論〜相対性理論はどのように生まれたか?〜

相対性理論

相対性理論とは、時空と物質は互いに密接に関係し合うことを説明する理論であり、量子論と並んで最も有名な物理理論の1つである。


本書は、その相対性理論を非常に分かりやすく説明した一冊である。特に、特殊相対性理論については、物理と専門としない人にとっても、十分わかった気になれる。相対性理論に興味があるが、敷居が高い、時間がないなどの理由で勉強しようと思わなかった方には、まずは本書を2時間程度で読みきることを強くお薦めする。

さて、相対性理論の中身の話については本書を読んで頂きたいが、ここでは相対性理論が生まれるプロセスに着目して、物理の理論構築の進め方について感じたことを述べたい。

思考実験の重要性

”思考実験 (しこうじっけん、英 thought experiment、独 Gedankenexperiment)とは、頭の中で想像するだけの実験。 科学の基礎原理に反しない限りで、極度に単純・理想化された前提(例えば摩擦のない運動、収差のないレンズなど)により遂行される。”(出典:Wikipedia)

相対性理論を説明する上で、以下のような思考実験が複数説明されている。また、本書によると、アインシュタインは思考実験が得意であったらしい。
 ・一定速度で進む電車中央から前後に光を照射したらどちらが先に到着するように見えるか?
 ・光の速さが10(m/s)だったら、世界はどう変化するか?
 など
 
ある仮説の下で必要な概念だけを抽出した単純な世界において、対象の物理法則に基づいて演繹的に事象を推論することで、自らが考える理論の妥当性について勘案したり、より深い洞察を得たりしていたのであろう。
実際、相対性理論が扱う物理現象は、ほぼ現実世界と乖離しており、ほとんどの一般人が人生において相対性理論の有無を日常生活で意識することはないと考えられる。そのような極めて想像しにくい世界においても、物理法則を論理的に組み合わせ、演繹的な結果を頭の中で想像できる力が必要なのであろう。

数式との対話


数式を用いて思考することは、高度な抽象化思考に相当する。
現実の事象を変数と式に落とし込むことで、ある公理系のもとで極めて客観的な演繹的推論が可能となる。
これは、前述の思考実験と似た側面があり、現実では想像もしにくい世界の物理現象を正確に推論することが可能となる。

数式を変形させたり、近似したり、様々な変化を加えることで、異なる解釈が可能となり、事象を色々な側面から観察することが可能となる。この数式との対話を繰り返すことで、ある物理現象を最も美しく説明できる方法を考えていく。

本質の見極めと抽象化による推論

このように、アインシュタインをはじめとした理論物理学者は、シンプルに問題の本質を抽出し、数式や思考実験を用いることで、様々な知見を獲得していた。

ポイントは本質の抽出と抽象化による推論であろう。我々が取り組む様々な問題のすべてに数式や思考実験が使えるとは限らないが、本質的な要素、より重要な要素、より支配的な要素だけを抽出し、適度に抽象化し、それらの関係性から何かしら想像し、推論するということは知らず知らずのうちに日常生活の中で行っている。より客観的に、より現実とかけ離れた世界の推論を行うためには、数式などの道具が必要というだけである。

今後、様々な要素が絡む複雑な問題が増えていくことは明白である。シンプルに本質的な要素や関係性を洗い出し、抽象化し推論・想像する力はより求められていくであろう。