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2017年8月31日木曜日

AI×データ時代に必要な「知覚」能力を補う方法

今更ではあるが、安宅和人氏の著した以下の記事を拝読した。安宅氏の経験に基づいた幅広い視野と深い思考・洞察があり、大変参考になる良記事であった。本記事のみのPDFであれば、800円程度で購入できるので、人工知能やデータ分析に携わる方はもちろん、そうでなく今後の未来予測に関心がある幅広い方々も、是非一度ご覧になっていただきたい。

知性の核心は知覚にある
~AI×データ時代に人間が生み出す価値とは~
(2017年5月号 特集 知性を問う)
http://www.dhbr.net/articles/-/4784

本ポストでは、この安宅氏の記事の内容を自分の言葉でまとめると共に、私が本記事を拝読して考えたことを後半に備忘録として追記しておく。本記事を読むことで、近年流行ってきた様々な手法の意味が再整理できたように思う。

「知覚」は重要である

これからは、幅広く目を向け、得られた情報を統合して、情報の意味合いを理解し(=「知覚」)、解釈した内容を言語として表現できることが重要な意味を持つ。

ますます世の中の問題は複雑化していき、それを解くための方法はより一層高度化し、多様化していく。このような状況下では、解くべき問題を定義する力と、解決手法を領域横断的に組合せる力が必要となる。そして、不完全な情報が複雑に絡み合う状態から、取り組むべき課題を見極め、答えを出すべき問いを定義するという極めて高度な情報処理においても、問いに対して様々な領域の知識や知見を総動員して取捨選択し、意味のある組み合わせを見つけ、革新的な解を出すという情報処理においても、「知覚」する能力は必要不可欠となってくるのだ。

なぜ「知覚」が重要なのだろうか

では、なぜ「知覚」が必要不可欠であり、より重要となってくるのだろうか。
その理由としては、情報を統合して意味合いを理解する能力は、これまでの思考・経験に依存する部分が大きいことが挙げられる。得られた情報のみを基に考える場合、情報が不完全なことが多いため、情報が不足し論理的に導かれる帰結は少ない。よって、これまで知り得た暗黙的なルールや別の前提を踏まえて、情報を補完しながら意味合いを理解することでしか、結論が見出せないことが多くなってくる。

「知覚」の能力を身につけるためには

よって、様々なことを経験し、知覚を鍛えるトレーニングをした方が良い。具体的には、複雑な情報の要素を見極め、性質を理解し、要素間の関係性を把握することである。この訓練は、既知の慣れ親しんだ環境下では難しく、全く新しい環境下において新しい経験を行う際により鍛えられると思われる。その状況を正しく理解しないと適切な行動をとれず、生きていけないからだ。

「知覚」能力を補填するためには

以下は本記事には全く書かれていない内容であり私の考えに過ぎないが、より効率的に「知覚」する方法、「知覚」能力を補填する手段もあるように思う。

たとえば、個人レベルでは、既存のモデル(ことわざや物理モデルなど)を対象にあてはめ、類似点や相違点を認識する、アナロジー(類推)思考を行うことで、意味合いの理解や解釈、次の結果まで予測できる場合がある。また、複雑かつ不完全な情報で構成される対象をシステムと捉え、構造的に理解するシステムズアプローチと呼ばれる方法も、要素の洗い出しや、要素間の関係性の整理に役立ち、情報の意味合いを把握、表現、共有することが容易になる。

一方で、チームレベルでは、デザイン思考ベースのワークショップなどで、他者の知覚情報を上手に取り入れ、チームとしての「知覚」能力を高めることも考えられる。

しかしながら、このようなアプローチのベースには、やはり原体験・経験に基づく「知覚」が重要な意味を持つ。また、これらのアプローチの結果を解釈する上でも、高度な認識能力が要求されることを忘れてはいけない。

2017年7月17日月曜日

今後必要となる量子コンピュータ(量子アニーリング方式)に関する周辺知識まとめ

「量子コンピュータが人工知能を加速する」を読んだ内容と周辺知識を整理した。
近年、注目を浴びている量子コンピュータの実情と今後に興味のある方には、必読の一冊と思う。近いうちにちゃんと勉強する必要が出てくるであろう。


本書は、量子コンピュータの基礎原理の一つである「量子アニーリング」方式の理論を提唱した、西森教授、大関准教授による共著の一冊となっている。

量子アニーリング方式の量子コンピュータは、以前は研究の本流であった量子ゲート方式に比べ、今現在とてつもない脚光を浴びている。

理由を平たくまとめると、解ける問題の幅は狭いが、近年重要な人工知能を下支えする重要な問題に対して適用可能で、従来のコンピュータに比べ、超高速(1億倍)かつ低エネルギー(スパコン京の500分の1)で、比較的安定的に解くことができるのだ。

量子アニーリングとは、組み合わせ最適化問題を解く場合に、量子効果を用いる方法である。まず、目的関数をイジングモデル(2値変数とその関係性の関数)として表現する。この2値変数が上下の向きを持つスピンに相当し、それらが格子状の構造を持っているモデルである。格子状につながっている変数同士は同じ値を保持したほうが、エネルギーが低く安定した状態となる。
次に、このイジングモデルに対して、横磁場をかけることで、スピンを上か下の決まった向きではなく、上下の両方を重ね合わせた状態で持つことが可能となる。これを格子状のすべての変数に対して重ね合わせた状態で持つことで、あらゆる解候補をすべて重ね合わせた状態で持つことに相当する(下図左)。
その後、だんだんと横磁場を弱めていく(上か下かをフィックスさせていく)と同時に、格子状の関係性(相互作用)を強くすることで、重ね合わせの確率分布が変化(下図中央)し、同最適化問題の解を得ることができるのである(下図右)。

Fig.量子アニーリングの概要 (横軸は2値変数の組の取るいろいろな値の組(古典状態),縦軸の黒の曲線は目的関数の値,青の線は各配位の存在確率を表す。)引用元:西森教授の量子アニーリング説明ページ

簡単に、量子アニーリング方式と量子ゲート方式を比較すると以下のような違いとなる。
  • 量子アニーリング方式
    • 組合せ最適化問題に特化
    • 安定:エネルギーが低い状態のみを保持すれば良いため
    • ※カナダのベンチャー起業のD−Wave社が実装した量子コンピュータは同方式
  • 量子ゲート方式 
    • 理論的には汎用的に利用可能
    • 不安定:重ね合わせの状態を保持する必要があるため
詳細は、著者の西森教授による量子アニーリング説明ページをご覧いただきたい。
量子アニーリングの論文やイジングモデルの具体的な定式化例の説明がある。
加えて、下記2つの記事は包括的に量子アニーリングについて説明している
大変有益な記事であった。
  1. 「量子コンピュータが人工知能を加速する」を読んで、数式を使わずにPythonでその概要を説明してみた
    http://qiita.com/onhrs/items/aa0aa181c27743956689
  2. 物理のいらない量子アニーリング入門
    http://blog.brainpad.co.jp/entry/2017/04/20/160000
現実の組み合わせ最適化問題を量子アニーリング方式で扱うためには、イジングモデルという形式に落とし込む必要がある。イジングモデルについては、上記記事にも説明が書かれているが、より直感的な理解を求める方は、以下2つを参照されたい。
  1. Ising Modelを平易に解説してみる
    http://enakai00.hatenablog.com/entry/20150106/1420538321
  2. イジングモデル - KnowledgeBase - 岡山大学理論化学研究室
    http://theochem.chem.okayama-u.ac.jp/wiki/wiki.cgi/exp11?page=%A5%A4%A5%B8%A5%F3%A5%B0%A5%E2%A5%C7%A5%EB
また、私が驚いたのは、D−Wave社のような量子コンピュータのハードウェア企業に加えて、「組み合わせ最適化問題」を量子アニーリング方式で扱う「イジングモデル(量子ビットとその相互作用の組み合わせ)」に変換するのに特化したソフトウェア企業が現れているというのも驚きである。
彼らはhardware-agnostic platforms and services(ハードウェア非依存の基盤とサービス)を適用している。今後、D−Wave社以外の量子アニーリング方式のハードウェアが現れてきても、1QBit社のイジングモデルへの記述方法のナレッジは適用可能である。また、日本独自の量子コンピュータと称される、国立情報学研究所が開発中の「レーザーネットワーク方式」の量子コンピュータもイジングモデルを採用しているため、イジングモデルで記述した問題はそのまま解くことができる。今後、ますます重要な役割を担うであろう。

最後に、現状の日本の量子コンピュータに関する取り組みについては、以下を参照されたい。
  1. 日本独自の量子コンピュータ
    http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20140314/543707/?rt=nocnt
  2. 人工知能に必要な「量子コンピュータ」とは|日本の取り組みと必要スキル
    https://furien.jp/columns/267/
雑多ではあるが、本書を読んで調べた周辺知識のまとめは以上である。
今後も、量子コンピュータ界隈の動向から目を話せないことは間違いない。

2017年6月17日土曜日

今更聞けないデータ分析による因果関係を示し方〜いかにして因果関係を示すか?〜

本書の概要

データ分析やデータサイエンス領域が重要視されて久しいが、「今あるデータから何が言えるのか」「あることを証明するためには、どのようなデータをどのようにとれば良いのか」を十分に理解して分析できる人材は多くない。大量データから単なる平均や分散などの基本的な統計量を算出することや、流行りの機械学習にとりあえず食わせる作業をデータ分析と言っている人も多い。

本書には、政策設計や制度設計における意思決定のためのエビデンスとして、データから因果関係を示すためのデータ分析手法およびその考え方が記されている。データ分析を実施したことがない方や、とりあえずExcelやAccessで分析したことはあるけれど、科学的に因果関係を立証したことはない方などには最高の入門書となるだろう。ただし、本書はあくまで因果関係の考え方に主眼を置いているため、基本的な統計の知識の説明や機械学習などの説明はほとんど含まれない。

また、本書の特徴としては、本編には数式は登場せず、数式アレルギーの方でもすらすら読めるようになっているので、安心されたい。発展的な内容や数式については、後半に良書が紹介されているので、より深い勉強をされたい方はそちらを参照すると良いであろう。

Kindle版も存在する。

因果関係を示す分析手法

本書で紹介されている因果関係を示す分析手法の概要と弱み・強みを備忘のために記しておく。

  • RCT(ランダム化比較試験)
    • 因果関係をデータ分析によって明らかにする最良の方法
    • 介入グループと比較グループを用意し、介入グループにのみ介入を行い、加入後の両グループの差を平均介入効果=因果関係と見なす。
    • 介入がなかった場合、介入グループと比較グループの平均結果は同じになる必要がある→自己選抜バイアスをなくすなど、無作為にグループを分ける必要あり
Fig. Randomized Controlled Trialの概要

  • RDデザイン(回帰不連続設計法)
    • 自然実験手法(あたかも実験が起こったかのような状況を用いて因果関係を分析する)の一種
    • 既存のデータの中に存在する境界線を利用し、ある境界前後において介入要素となりうるもののみが非連続に変化する場合(その他の要素は連続的に変換する必要がある)、その境界線付近の前後でRCTと見なすことができる。
  • 集積分析
    • 自然実験手法(あたかも実験が起こったかのような状況を用いて因果関係を分析する)の一種
    • 既存のデータの中に、何らかのインセンティブのみが階段状で変化する場合(その他の要素は連続的に変化する必要がある)、インセンティブが大きく変わる境界点におけるデータを集積することで、インセンティブに反応したかどうかの因果関係を説明できる。
  • パネル・データ分析
    • 自然実験手法(あたかも実験が起こったかのような状況を用いて因果関係を分析する)の一種
    • 複数グループに対して、介入開始前のデータに「平行トレンドの仮定」が成り立つ場合、介入前後の複数グループ間の差を比較することで介入効果を説明できる。
Fig. Analysis of Panel Data 



分析手法の強みと弱みの整理

分析手法強み弱み
RCT
(ランダム化比較試験)
・因果関係を科学的に立証できる
→内的妥当性が非常に高い
・費用/労力/各機関の協力を要する
RDデザイン
(回帰不連続設計法)
・境界線を境に、介入要素のみが非連続であるという仮定が成り立つのであれば、既存のデータを基にあたかもRCTが起こっているようにみなせる・成り立つであろう根拠を示せるが、因果関係を科学的に立証できない
・境界線付近のデータにしか、因果関係を主張できない(境界線付近の主体に対する介入効果しか説明できない)
集積分析・境界線を境に、介入要素のみが階段状で変化し、他の要素は非連続で変化しないという仮定が成り立つのであれば、既存のデータを基にあたかもRCTが起こっているようにみなせる・成り立つであろう根拠を示せるが、因果関係を科学的に立証できない
・階段状に変化するインセンティブに反応する主体に対する因果関係しか主張できない
パネル・データ分析・介入が起こった前後のデータが介入グループと比較グループについて入手でき、介入グループと比較グループについて平行トレンドの仮定が成り立つ場合、介入グループに属する全ての主体に対して介入効果が説明できる
→外的妥当性は比較的高い
・成り立つであろう根拠を示せるが、因果関係を科学的に立証できない
・「平行トレンドの仮定」は非常に難しい仮定であり、成り立たない状況も多い
→他の手法に比べ、内的妥当性は劣る


2017年6月4日日曜日

標準一様分布に従う独立した2つの確率変数の大きい方の期待値の求め方(3)

一様分布の定義は過去のポストに記載しているので参照されたい。今回のポストでは、おまけとして、任意の連続一様分布の期待値を求める。

(おまけ)任意の連続一様分布の場合


まず、$Y$が大きい場合を考える。求める期待値は$Y$の期待値となることから、以下で表せる。なお、各確率変数は、$a$から$b$の間の一様分布(確率 $\frac{1}{b-a}$)に従うため、確率密度関数は、2変数の同時確率となり、定数$\frac{1}{(b-a)^2}$ をとる。

$$
\begin{eqnarray}
& &\int_a^b\int_x^b \frac{y}{(b-a) ^2} dydx\\
&=&\int_a^b\frac{(b^2-x^2)}{ 2(b-a) ^2 }dx\\
&=&\left[ \frac{3b^2x - x^3 }{ 6(b-a) ^2 } \right]_a^b\\
&=&\frac{ (2b^3-3ab^2+a^3) }{ 6(b-a) ^2 }\\
&=&\frac{ (2b+a)(b-a)^2 }{ 6(b-a) ^2 }\\
&=&\frac{ (2b+a) }{ 6 }\\
\end{eqnarray}
$$

$X$と$Y$は対称であるため、$X$が大きい場合も同様に$\frac{ (2b+a) }{ 6 }$となる。よって、求める期待値は、$\frac{ (2b+a) }{ 3 }$であり、0から1の標準一様分布もこの値を満たす。

その他:美しい解法

本問題について、より美しく解いていたQAサイトを発見したので、紹介する。

Expected value of maximum of two random variables from uniform distribution
https://math.stackexchange.com/questions/197299/expected-value-of-maximum-of-two-random-variables-from-uniform-distribution

すべての非負の確率変数$X$の期待値は以下で表せることをうまく利用した例である。
$$
\begin{eqnarray}
& &E[X]\\
&=&\int_0^\infty yf_X(y) dy\\
&=&\int_0^\infty f_X(y) \int_0^y1dxdy\\
&=&\int_0^\infty\int_0^yf_X(y)dxdy\\
&=&\int_0^\infty\int_x^\infty f_X(y)dydx\\
&=&\int_0^\infty P(X \geq x) dx\\
&=&\int_0^\infty 1 - P(X \leq x) dx\\
\end{eqnarray}
$$

なお、式(10)〜式(11)は積分範囲の指定の順序を交換している。詳細は、以下を参照されたい。

Expected value of a non-negative random variable
https://math.stackexchange.com/questions/958472/expected-value-of-a-non-negative-random-variable

加えて、2つの確率変数の最大値が特定の値$x$よりも小さくなる確率は、以下で表現できる。
$$
\begin{eqnarray}
P(max(X,Y) \leq x) = P(X \leq x)P(Y \leq x)
\end{eqnarray}
$$

よって、以下のように求められる。

$$
\begin{eqnarray}
& & E[max(X,Y)]\\
&=& \int_0^\infty 1 - P(max(X,Y) \leq x) dx\\
&=& \int_0^\infty 1 - P(X \leq x)P(Y \leq x) dx\\
&=& \int_0^1 1 - x^2 dx\\
&=&\left[ \frac{3x - x^3 }{ 3 } \right]_0^1\\
&=& \frac{ 2 }{ 3 }
\end{eqnarray}
$$

標準一様分布に従う独立した2つの確率変数の大きい方の期待値の求め方(2)

標準一様分布の定義は過去のポストに記載しているので参照されたい。今回のポストでは、重積分を用いて期待値を表現することで、期待値を求める。

重積分によって導出する場合


標準一様分布に従う2つの確率変数をそれぞれ$X,Y$とする。

まず、$Y$が大きい場合を考える。求める期待値は$Y$の期待値となることから、以下で表せる。なお、0から1の間の区間1の一様分布であるため、確率密度関数は定数1をとなることに注意されたい。

外側の積分範囲は小さい方$X$のとりうる範囲を表し、内側の積分範囲はその$X$に対して、大きい$Y$をとる範囲を表している。

$$
\begin{eqnarray}
& &\int_0^1\int_x^1 y dydx\\
&=&\int_0^1\frac{(1-x^2)}{ 2 }dx\\
&=&\left[ \frac{3x - x^3 }{ 6 } \right]_0^1\\
&=&\frac{ 1 }{ 3 }
\end{eqnarray}
$$

$X$と$Y$は対称であるため、$X$が大きい場合も同様に$\frac{ 1 }{ 3 }$となる。

すなわち、求める期待値は、$\frac{ 2 }{ 3 }$である。
なお、当然、離散確率変数の極限から導出した場合と同じ値をとる。

次回は一般化して、任意の連続一様分布の場合を考える。

標準一様分布に従う独立した2つの確率変数の大きい方の期待値の求め方(1)

連続一様分布の定義


連続一様分布の確率密度関数は以下の通りである。

$$
\begin{eqnarray}
f ( x )
 =
  \begin{cases}
    \frac{ 1 }{ b - a } & ( a \leq x \leq b ) \\
    0 & ( x \lt a \ or \ b \gt x )
  \end{cases}
\end{eqnarray}
$$
今回対象の標準一様分布は以下で定義される。
$$
\begin{eqnarray}
f ( x )
 =
  \begin{cases}
    1  & (0 \leq x \leq 1 ) \\
    0 & ( x \lt 0 \ or \ 1 \gt x )
  \end{cases}
\end{eqnarray}
$$

いくつかの方法で期待値を求めてみる。

  1. 離散一様分布の極限から導出する場合
  2. 重積分によって導出する場合
  3. (おまけ)任意の連続一様分布の場合


離散一様分布の極限から導出する場合


$[0,1]$の区間を$n$等分し、$0, \frac{ 1 }{ n },...,\frac{ k }{ n },...,\frac{ n }{ n }$ の$n+1$つの離散値を、それぞれ$\frac{ 1 }{ n+1 }$の確率でとる離散一様分布を考える。

この離散一様分布から、2つの確率変数$X,Y$をとる場合に、その大きい方の期待値は、以下の式で求められる。
$$
\small{2\sum_{k=0}^{n} \frac{ k }{ n }\cdot\frac{ 1 }{ 1+n }\cdot\frac{ 1+k }{ 1+n }-\sum_{k=0}^{n} \frac{ k }{ n }\cdot\frac{ 1 }{ 1+n }\cdot\frac{ 1 }{ 1+n }}
$$
簡単に解説すると、$X$が大きい方となり、その値が$\frac{ k }{ n }$をとる確率は、$\frac{ 1 }{ 1+n }\cdot\frac{ 1+k }{ 1+n }$である。この時、$Y$は、$\frac{ k }{ n }$以下の値をとる必要があることに注意されたい。次に、$Y$が大きい方となる場合も考慮し、$X=Y$となる重複する確率を除くと、求める期待値は、上記式で表現できる。

次に期待値の式を簡単にすると、以下の式(5)が得られる。
$$
\begin{eqnarray}
& &\small{2\sum_{k=0}^{n} \frac{ k }{ n }\cdot\frac{ 1 }{ 1+n }\cdot\frac{ 1+k }{ 1+n }-\sum_{k=0}^{n} \frac{ k }{ n }\cdot\frac{ 1 }{ 1+n }\cdot\frac{ 1 }{ 1+n }}\\
&=&\sum_{k=0}^{n} \frac{ 2k^2+k }{n(1+n)^2 }\\
&=&\sum_{k=1}^{n} \frac{ 2k^2+k }{n(1+n)^2 }\\
&=&\small{\frac{1}{n(1+n)^2}\cdot( 2\frac{n(n+1)(2n+1)}{6}+\frac{n(n+1)}{2})}\\
&=&\frac{4n+5}{6n+6}
\end{eqnarray}
$$

この$[0,1]$の区間を分割する変数である$n$を無限大の極限をとると、連続一様分布に従う独立した2つの確率変数の大きい方の期待値と等しいが得られる。
$$
\begin{eqnarray}
& & \lim_{ n \to \infty }\frac{4n+5}{6n+6}
&=& \lim_{ n \to \infty }\frac{4+\frac{5}{n}}{6+\frac{6}{n}}
&=&\frac{2}{3}
\end{eqnarray}
$$

次回は重積分を用いて、直接連続一様分布に従う独立した2つの確率変数の大きい方の期待値を考える

2017年4月18日火曜日

【SPRINT】Googleで培われた最速な問題解決プロセス

本書の概要

SPRINTとは、Googleの中で培われた短期間(5日間)で、問題を見極め、解決のためのアイデア評価を行い、答えを出す手法である。下記の図で示すように、通常ビジネスにおいては必要な、ビルドやローンチといったプロセスをスキップして、アイデアの良し悪しを学ぶことを可能とする。

Shortcut [the Design Sprintより引用]


本書は、SPRINTについての体系だった説明というよりは、具体的な実践方法が詰め込まれた一冊である。「リーンスタートアップ」よりも速く答えを出すための工夫が、「イシューからはじめよ」よりも実践的で現実に即した内容が盛り込まれている。

例えば、進行役が注意すべき点や、被験者の集め方に加え、文房具の準備の方法や、おすすめのランチのタイミングなど、実践知に基づき、実際にSPRINTを実施して問題解決するための細かいTipsまで記されている。加えて、本書末尾の付録には、SPRINT実施のための留意点をまとめたチェックシートがついており、実際に問題解決策のアイデア出し&評価を実施するためには、ぜひ参考にしたい内容だ(本書をそばに置きつつ、まずはSPRINTの試してみて、その効果を見定めるのはアリだと思う)。

しかしながら、本書は残念な点も多い。章の頭や途中に、方法の説明と前後する形で事例が記載されており、しかも、小説調や語り調で書かれているため、読みにくかったように思う。個人的には、洋書特有の緩い表現をを排して、見出しを構造化して事例は最後にまとめるなどすれば、より読みやすい書籍となったように思う。また、副題に「最速仕事術」とあるが、「仕事」という表現は少しもったいないように思う。本書でいう「仕事を最速に行うこと」は、チームとして問題の特定から、解決アイデアの評価を最速で行うことであり、一般的に「仕事」という言葉が指すことの多い、個人の決まった作業の効率化という内容とは一線を画すからである。

SPRINTの重要な考え方

SPRINTの中で特に重要と感じた考え方について列挙する。

  1. 役割とプロセスの明確化と合理化
    • 問題を深掘りする際の課題の洗い出しなどは、専門家を招聘して実施し、出来上がったプロトタイプの評価は被験者を集めヒアリング評価を行う。また、チームで集めたアイデアの素材は共有し、それを基にメンバは個人でソリューションを考え、スケッチにまとめる。またメンバは投票を行い、意思決定者が最終的にソリューション案を決定する。このように誰がどれを行うかが明確になっており、無駄がなく、合理的である。
  2. 問題の見極めとフォーカスを尊重
    • いきなりソリューションを考えるのではなく、まず問題をしっかりと特定し、チームとして認識し、明確なターゲット(どの顧客の何の瞬間)を定める。
  3. 解決策立案のための素材収集の効率化
    • 定義された問題を解決するための既存のアイデアを持ち寄って、デモを行いチームに共有する。チームは、共有された既存アイデアを改善させたり、組替えたりすることで新しいアイデアを醸成する。
  4. 解決策のアイデアは具体化
    • ブレインストーミングより個人のアイデア出しの方が優れていることは立証済であるため、個人でアイデア出しを行う。また、抽象的なアイデアの場合、感情や主観によって捉え方や評価が変化しやすいため、アイデア自体を公平公正に評価するため具体化を行い、スケッチにまとめる。
  5. アイデアの意思決定/合意形成の効率化/主観の排除
    • 「メンバの品評→メンバの投票→意思決定者の決断」というようにプロセスを決めておくことで、好き勝手に自由なタイミングで品評する無駄な時間を省くことができる。匿名にするなどして、アイデアを公平に客観的に評価できるような工夫をする。

SPRINTの実施内容

本書に記載されたSPRINTのキーワードを、備忘録として曜日ごとに整理しておく。

◼︎月曜日:問題を見極め、特定する ※いきなりソリューションから入らない
長期目標:プロジェクトの1年後に目指すところ
スプリントクエスチョン:スプリントの最後にどのような問いに答えられるか?
マップ:顧客が製品/サービスを利用する流れを整理したもの
専門家にきく:マップを確かめる、課題を知る
どうすればメモ:課題に対して、どうすれば〜という形でまとめる
ターゲットを決める:本SPRINTでどこにフォーカスすべきか?
 ・重要な顧客は誰か?
 ・体験の中で最も重要な瞬間はいつか?
 ・インパクトがある/重要そうなところ

◼︎火曜日:問題解決のアイデアを具体的なスケッチにする
光速デモ:改良と組替えに焦点をあてる。既存のアイデアで使えそうなものを3分でプレゼン。月曜からの宿題でも良い。

メモ: ベストな素材を集める
アイデア: なんでも書く
クレイジー8: アイデアのバリエーションを高速に洗い出す
ソリューションスケッチ:3コマでまとめる:全員が個別に作成する、抽象的なアイデアは誤って評価される、ブレストより個人の方が良いアイデアがでるのは証明済。

◼︎水曜日:解決策の決定とプロトタイプのストーリー作成
ソリューションスケッチの決定:投票して勝者を決める
ストーリーボード:プロトタイプの計画を立てる

◼︎木曜日:リアルなプロトタイプの作成
ファサード:完璧→必要最低限、長期品質→一時的なシミュレーション
プロトタイプ思考:
 ・短時間でリアルさを得る。
 ・時間をかけすぎない。

◼︎金曜日:生身の人間による評価
現実なユーザーによるテスト(5人):それ以上は費用対効果が微妙。

参考情報

The Design Sprint http://www.gv.com/sprint/