本書における仕事の捉え方
本書では、仕事を以下のように定義している。仕事とは、「行わねばならないこと」を「体や頭を使って行うこと」。また、
「行わねばならないこと」とは、仕事の対象の「始めの状態」を「終わりの状態」に変えること。仕事の対象の中でも、二次的な対象ではなく、行わねばならないことに直結するような本質的な対象のことを要のモノと呼ぶ。また、要のモノの「始まりの状態」と「終わりの状態」の間の状態変化を起こす作用のうち、適切に抽象化•シンプル化した作用を基本変換、要のコトと呼ぶ。
まとめると、以下の図になる。
モノとコトで仕事の本質を考えるメリット
このような仕事の捉え方は業務改善にと大きく貢献する。要のモノ、要のコトを基にして、仕事の本質を正確に捉えることで、それ以外のぜい肉部分、仕事のムダを削げ落としていくことが可能となるからだ。これは目的と手段を切り分けて考えることを強制する思考法といえる。
シンプルな仕事の本質(=要するに何をどの状態にすれば良いのか?)を目的として設定することで、手段(どのように状態変化を起こすか)については、より良いものを考える余地を残す。普段の業務における複雑な関係性の中で、自らの仕事を見つめ直す場合にこの強制力は有効である。
また別の側面から見れば、仕事の主体・アクターではなく、仕事の対象に注目した思考法ということもできる。
主体者中心に仕事の本質を考えてしまうと、どうしても主体者自らの先入観や習慣や、作業時の感情などを含んでしまい、本質を正しく捉えにくい。
そこで、
- 対象を起点とし、
- 対象を中心に、
- 対象の気持ちになって仕事をとらえていく、
といった考え方が重要となる。仕事の対象に目を向け、要のモノとして定義することが、本思考法の起点となる。対象を知ること、観察することがより良い仕事をするための原点であるという考え方である。
このような考え方はシンプルであるが故に汎用性も高く、様々な仕事に適用できる強力な思考法だと考えられる。特に、複雑になりがちな、組織横断的な現行業務プロセスの分析、無駄の排除を考える上では、特に有効に働くのではないだろうか。
モノとコトで仕事の捉えた例
この考え方に沿って一つ例を挙げる。「お茶を淹れる」を仕事を考える。
この作業において、要となるモノとしては茶葉とお湯である。
終わりの状態としては、「80度程度のお湯に茶葉からお茶の成分が適度に溶け出している状態」ということができよう。
また、始まりの状態としては、「茶葉と水の状態」といえる。
「茶葉と水の状態」を「80度程度のお湯に茶葉からお茶の成分が適度に溶け出している状態」に変換する基本的な変化は何か?本質的な変化、つまり要のコトは以下の2つであると考えられる。
- 熱する(水→80度程度のお湯)
- 拡散する(茶葉→適度に茶葉の成分が溶け出している状態)
要のコトを捉えた後に、手段を考えると工夫できるポイントが明確である。
熱する手段としては、ポット、やかん、電気ケトル・・様々な熱し方がある。同様に、拡散する手段としては、お湯に浸して自然に拡散するのを待つという手段や、茶葉から成分を事前に取り出しておいて適度に後からお湯に混ぜるという方法でも良い。
今回の自分の置かれた環境や制約条件などを加味して最も良い手段を考えればよいのである。
ただし、忘れていけないことは、お茶を淹れるためには、水を熱してお湯にする必要があり、茶葉の成分を拡散させる必要があるということだ。これはお茶を淹れるためには必須の作業でこれを代替することはできない。これが要のモノたる所以である。
モノとコトから仕事の本質を考える落とし穴
しかしながら、このような有益な思考法であるが、出版されたのが2003年ということもあり、重要な観点が抜けていると考えられる。残念なことに、本思考法においては、既存の仕事およびその対象となるモノありきで考え始めてしまう嫌いがある。この時に抜けたり漏れたりしてしまう観点としては、そもそもその仕事はどなような価値を顧客に提供しているのか?という観点である。これは、"行なわなければならないこと"に対するWhyを検証しきれない可能性を孕んでしまう。つまり、なぜ行なわなければならないか?についての思考が深く行えずに、盲目的に行なわなければならないとした時の最適な手段を考えることになる場合があり得る。
また、対象の状態については、なぜその状態が嬉しいかを見直すきっかけにはなるであろうが、そもそもなぜその仕事はそのモノを対象としているのか、という重要な質問を考える契機を得られない。
近年一層複雑化する社会において、各人の価値観の多様化も著しい。そのような状況において、本当に行なわなければならないことを見直し、誰にどのような価値を提供するのか?というより基本的な問いに、今こそ答えていく必要があるのではないだろうか。
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