概要
多くの有名企業が採用基準に加えるなど、最近注目を浴びている「GRIT:やり抜く力」について、豊富な事例・科学的な根拠に基づいたまとめられた一冊である。学力の経済学などでも教育について統計的な根拠を用いて緻密な説明がなされていたが、本書でも多くの統計情報を基に論じられるため、科学的にGRITに関して理解が深まると同時に、それを裏付ける多くの偉人の具体的なエピソードはとても読み応えがある。
構成とおすすめの読み方
大きく分けて3つのパートから構成されている。PART1は、GRITとは何か、GRITの重要性について、
PART2は、自分自身がGRITを伸ばすための方法について、
PART3は、自分以外のGRITを伸ばすための方法について、
それぞれ記されている。
そのため、自身がGRITを身につけたい、向上させたいと考える方は、PART1,2を中心に読むと良い。
また、子供や部下のGRITを伸ばしたいと考える親、教育者、上司のような方はPART1,3を中心に読むことをおすすめする。
どのようにGRITを伸ばすかなどの詳細については、実際に本書を手にとって読んで頂きたいが、今回は備忘録代わりにGRITの重要性についてまとめ、まずはじめに多くの人が悩むであろう「取り組むべきこと」の発見方法についてのみ深掘りする。
GRITとは?
本書において、GRITの定義をビシッと一言で記載されておらず、明確な定義はないのであるが、一言でまとめると以下になるであろう。GRIT(やり抜く力)とは(長期的な目標に向けた)「情熱」と「粘り強さ」である
情熱とは、ある重要な目標を達成するために興味を持ち続け、練習し続けることである。熱心さ、夢中や熱中とは若干ニュアンスが異なり、一つのことにじっくりと長い間取り組む姿勢のことである。
また、粘り強さとは、困難や挫折があっても諦めずに、目的達成のために希望を持って努力をし続けることである。
本書の中で引用されていた300名の偉人を対象にして実施された調査によると、これらを持ち合わせた人が必ず偉業を達成できるとは限らないが、偉業を達成できた人の中でも特に大きな功績を挙げた人はGRITが優れていたとのことである。
なぜGRITが重要なのか?
それでは、なぜGRITが重要なのであろうか。本書では、しばしば才能とGRITを対比させる形で論じられるが、才能とGRITがどのように偉業と関連しているかは、以下の式にて示される。
達成の方程式
スキル=才能×努力達成=スキル×努力
$$ accomplishment= gift*grit^2 $$
つまるところ、偉業の達成は、才能に比例し、努力の二乗に比例するのである。2倍努力し続ける人は、4倍の業績をあげるということである。
よって、才能が突出していなくても、GRITを鍛え上げることで抜群の業績を出すことが可能となる。
しかしながら、なんでもかんでも必死にやり続ければよいというものではなく、ブレない目標、動機の持続性が必要であり、着実にスキルを向上させるためのカイゼンも必要であると本書では述べられている。
何に取り組むべきか?情熱はどのように抱くのか?
自分が何を取り組むべきか、自分が本当にやりたいことは何かをわかっている人は少ないのではないだろうか。重要な目標、目的を決めきれないまま、なんとなく学業や仕事をしている人に対して、道しるべとなる情報が記されていたので、整理しようと思う。
本書によると、深い情熱は「興味」と「目的」によって支えられるという。
興味を掘り下げる
興味の段階として、発見と発展の2つの段階があると述べている。
1つ目は、自分自身が何に興味を覚えるかを知る「発見」の段階であり、
2つ目は、その興味を持ち続け、興味をさらに掘り下げていく「発展」の段階だという。
発見の段階では、まずは自身の好き嫌いに着目し、とりあえず好きなことをスタートさせて見ることが重要であり、何をしている時間が最も楽しいかを知る必要がある。一朝一夕では自分の興味を発見できないのが普通であり、時間をかけてまずは方向性を探るところから始めてみようとのことだ。
私個人としては、この発見の段階において「本当に楽しい、心から興味がある」という確信は、「どのような条件、どのようなタイミングで得られるのか?」にとても関心があったが、残念ながらその辺にはあまり触れられていない。おそらく興味関心は、遺伝というよりは、個々人の原体験によって、決まるものではないかと思うのだが。
次に発展の段階であるが、興味のあることをさらに掘り下げていくフェーズである。誰でも新しいことに興味を抱くということに変わりはないが、GRITが弱い人は、全く違う新しさを持つことに目移りしてしまい長続きしないと言われれている。対して、GRITの強い人は、興味のあることの微妙な差異に新しさを覚えるらしい。興味のあることに常に疑問をもち、その答えを探し続けることで興味を掘り下げ、新しさを見出すのである。そして、その微妙な差異にさらに興味を覚え、情熱をドライブし続ける。
自分の身近にいるエキスパートも微妙な差異に気づく。他の人がしっかりとレビューしても気付かない、設計上の考慮漏れや検証方法の穴に瞬時に気づき、的確な質問をするケースを何度も見てきた。エキスパート自身が興味を掘り下げていく上で、そのような細部にも目を配って、考慮し続けてきたことであるから、いわゆる直観が働くのであろう。
目的を見出す
興味のあることに対して真剣に取り組むことで、自分の取り組んできたことに大きな目的や意義を見出すという。ポイントとしては、目的起点で興味のあることを見つけるのではなく、まず興味のあることを色々と模索し、興味に基づいて真剣に取り組み、それを改めて振り帰って目的を見出すことが一般的ということである。
社会的意義や、他者を助けたいという目的を思ってから物事に取り組むことも決して悪いことではない。しかしながら、ある研究成果によると、目的に加えて、その仕事自体への興味がある場合の方が、目的だけの場合に比べて、継続的に努めるのだという。
私個人としても、何か特別な経験がないといきなり目的を決めることは困難に思う。やはり興味のある分野をやってみて「目的を見出す」ことが自然な気がする。孔子も論語の中で、同様の段階を経ており、ひたすら学問を続けてみて、50歳にしてやっと真の目的(天命)を見出せたのだと思う。「とりあえず続けてみて」といった軽い思いで始めたわけではなかったかもしれないが、真剣に取り組んだ後だからこそ、見出せたのだろう。
子曰く、
吾れ十有五にして学に志ざす。
三十にして立つ。
四十にして惑わず。
五十にして天命を知る。
六十にして耳従う。
七十にして心の欲する所に従って、矩を踰えず。
さいごに
兼ねてから、自分自身のパフォーマンスは明らかにモチベーションに依存すると感じていたため、どうすればモチベーションが上がるのか、情熱が抱けるのだろうか、と思っていた。本書は、情熱を「興味」と「目的」にブレイクダウンし、科学的な根拠に基づいて、それぞれの向上の方法について論じられた良書であった。何をすべきか悩んでいる方、成果が出ずに悩んでいる方などは是非ご一読いただきたい。
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