本書の概要
SPRINTとは、Googleの中で培われた短期間(5日間)で、問題を見極め、解決のためのアイデア評価を行い、答えを出す手法である。下記の図で示すように、通常ビジネスにおいては必要な、ビルドやローンチといったプロセスをスキップして、アイデアの良し悪しを学ぶことを可能とする。
Shortcut [the Design Sprintより引用]
本書は、SPRINTについての体系だった説明というよりは、具体的な実践方法が詰め込まれた一冊である。「リーンスタートアップ」よりも速く答えを出すための工夫が、「イシューからはじめよ」よりも実践的で現実に即した内容が盛り込まれている。
例えば、進行役が注意すべき点や、被験者の集め方に加え、文房具の準備の方法や、おすすめのランチのタイミングなど、実践知に基づき、実際にSPRINTを実施して問題解決するための細かいTipsまで記されている。加えて、本書末尾の付録には、SPRINT実施のための留意点をまとめたチェックシートがついており、実際に問題解決策のアイデア出し&評価を実施するためには、ぜひ参考にしたい内容だ(本書をそばに置きつつ、まずはSPRINTの試してみて、その効果を見定めるのはアリだと思う)。
しかしながら、本書は残念な点も多い。章の頭や途中に、方法の説明と前後する形で事例が記載されており、しかも、小説調や語り調で書かれているため、読みにくかったように思う。個人的には、洋書特有の緩い表現をを排して、見出しを構造化して事例は最後にまとめるなどすれば、より読みやすい書籍となったように思う。また、副題に「最速仕事術」とあるが、「仕事」という表現は少しもったいないように思う。本書でいう「仕事を最速に行うこと」は、チームとして問題の特定から、解決アイデアの評価を最速で行うことであり、一般的に「仕事」という言葉が指すことの多い、個人の決まった作業の効率化という内容とは一線を画すからである。
SPRINTの重要な考え方
SPRINTの中で特に重要と感じた考え方について列挙する。- 役割とプロセスの明確化と合理化
- 問題を深掘りする際の課題の洗い出しなどは、専門家を招聘して実施し、出来上がったプロトタイプの評価は被験者を集めヒアリング評価を行う。また、チームで集めたアイデアの素材は共有し、それを基にメンバは個人でソリューションを考え、スケッチにまとめる。またメンバは投票を行い、意思決定者が最終的にソリューション案を決定する。このように誰がどれを行うかが明確になっており、無駄がなく、合理的である。
- 問題の見極めとフォーカスを尊重
- いきなりソリューションを考えるのではなく、まず問題をしっかりと特定し、チームとして認識し、明確なターゲット(どの顧客の何の瞬間)を定める。
- 解決策立案のための素材収集の効率化
- 定義された問題を解決するための既存のアイデアを持ち寄って、デモを行いチームに共有する。チームは、共有された既存アイデアを改善させたり、組替えたりすることで新しいアイデアを醸成する。
- 解決策のアイデアは具体化
- ブレインストーミングより個人のアイデア出しの方が優れていることは立証済であるため、個人でアイデア出しを行う。また、抽象的なアイデアの場合、感情や主観によって捉え方や評価が変化しやすいため、アイデア自体を公平公正に評価するため具体化を行い、スケッチにまとめる。
- アイデアの意思決定/合意形成の効率化/主観の排除
- 「メンバの品評→メンバの投票→意思決定者の決断」というようにプロセスを決めておくことで、好き勝手に自由なタイミングで品評する無駄な時間を省くことができる。匿名にするなどして、アイデアを公平に客観的に評価できるような工夫をする。
SPRINTの実施内容
本書に記載されたSPRINTのキーワードを、備忘録として曜日ごとに整理しておく。◼︎月曜日:問題を見極め、特定する ※いきなりソリューションから入らない
長期目標:プロジェクトの1年後に目指すところ
スプリントクエスチョン:スプリントの最後にどのような問いに答えられるか?
マップ:顧客が製品/サービスを利用する流れを整理したもの
専門家にきく:マップを確かめる、課題を知る
どうすればメモ:課題に対して、どうすれば〜という形でまとめる
ターゲットを決める:本SPRINTでどこにフォーカスすべきか?
・重要な顧客は誰か?
・体験の中で最も重要な瞬間はいつか?
・インパクトがある/重要そうなところ
◼︎火曜日:問題解決のアイデアを具体的なスケッチにする
光速デモ:改良と組替えに焦点をあてる。既存のアイデアで使えそうなものを3分でプレゼン。月曜からの宿題でも良い。
メモ: ベストな素材を集める
アイデア: なんでも書く
クレイジー8: アイデアのバリエーションを高速に洗い出す
ソリューションスケッチ:3コマでまとめる:全員が個別に作成する、抽象的なアイデアは誤って評価される、ブレストより個人の方が良いアイデアがでるのは証明済。
◼︎水曜日:解決策の決定とプロトタイプのストーリー作成
ソリューションスケッチの決定:投票して勝者を決める
ストーリーボード:プロトタイプの計画を立てる
◼︎木曜日:リアルなプロトタイプの作成
ファサード:完璧→必要最低限、長期品質→一時的なシミュレーション
プロトタイプ思考:
・短時間でリアルさを得る。
・時間をかけすぎない。
◼︎金曜日:生身の人間による評価
現実なユーザーによるテスト(5人):それ以上は費用対効果が微妙。
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