先日、以下を読んだので、備忘録代わりに考えたことをまとめる。
ザ・プラットフォーム − IT企業は成果を変えるのか?(NHK出版新書)
尾原 和啓 (著)
本書では、プラットフォームを以下のように定義している。
「ある財やサービスの利用者が増加すると、その利便性や効用が増加する『ネットワーク外部性』がはたらくインターネットサービス」
このようなプラットフォームがビジネスの世界だけではなく、私たちの生活の随所で重要な役割を担うようになってきている。本書では、世界を動かす可能性も十二分に秘めているこのプラットフォームについて、著者が実際に経験した企業(Google, 楽天, リクルート)を含む様々な実事例を交えて、その特徴や課題、また未来について記されている。
この記事では、本書2章「プラットフォームの共有価値観」にあった内容が興味深かったので、その点に焦点をあて、まとめておく。
まず、プラットフォームの本質を捉えるために、共有価値観(Shared Value)を読み解くことが重要である。
共有価値観(Shared Value)は、企業分析に用いられる
7S(Seven S Model)
の中心に据えられ、その他の企業内のあらゆる要素(Strategy, Structure, Systemes, Staff, Style, Skills, Strategy)とも強く結びついているため、プラットフォーム本質を知るために欠かせない要素となるのである。
本書では、言わずと知れたIT企業であるGoogleを例にとり、
プラットフォームの本質の読み解いているが、興味深い点は、コンセプトビデオを起点として、共有価値観を分析するところだ。
Googleの製品のコンセプトビデオの随所に散りばめられた、価値観の片鱗を紡ぎ合わせて、1つのストーリーとしてまとめている。(本書ではその他Appleについても深い考察がなされている。)
これは、私の偏見かもしれないが、一部はストーリーが先にあって、後付けでコンセプトビデオから関連するシーンを抽出したと考えられるが、その洞察と構成力は深い。今後様々なジャンルで、様々なプラットフォームが台頭してくると考えられるが、このような共有価値観を読み解くといった見方をしっているだけで、捉え方の深みは代わり、そのプラットフォームとの向き合い方も変化すると考える。
それでは、Googleの例について見ていこう。
VIDEO
「Google Glass」のコンセプトビデオ からその共有価値観を読み解いていく。2015年1月にβ版が販売されたものの、未成熟であったためか「Google Glasshole」などと揶揄され、一時的に撤退し、現在研究所における開発体制となった製品であるが、このコンセプトビデオにはGoogleの共有価値観が多分に含まれているようである。
コンセプトビデオの前半では、以下のようなシーンがある。
1. コーヒーを飲みながら時計を見る
→ Glassに今日の予定が表示される
2. 続けて窓の外を見る
→ Glassに天気予報と気温が表示される
3. ハムエッグを食べながら、音声入力でメールを返信する
4. 通勤途中、地下鉄が止まってしまった
→ Glassにルート案内が表示される
5. 見知らぬ土地で不自由なく目的地に向かって歩く傍ら、犬をなでる
(続く)
まず、1, 2, 4から、実世界の行動や所作から予測し、ユーザーのインテンション(意図)を読んで、先回りして必要な情報を提示することを、Googleが目指していることがわかる。
次に、3, 5のシーンから、より重要なメッセージが窺い知れる。
3のシーンでは、メールを気にせずにハムエッグを食べることに集中できる。また、5のシーンでは、従来スマホの地図を見ながら歩く場合には、犬の存在に気づかないかもしれない。そこにGlassを持ち込むことで、利用者に新しい気付きを与えている。
この3, 5のシーンのコンセプトこそが、近年シリコンバレーでも注目されている「マインドフルネス」という考え方である。マインドフルネスとは一言でいえば、「雑事や雑念にとらわれず、目の前のことに集中できるようになることで、日常の何気ないことから高い満足を得られるようになること」である。
Glassはメールを気にせずに、ハムエッグのゆっくりと味わい、道に迷って焦ることなく、かわいい犬と触れ合うことを支援するデバイスである。
以上のように、Google Glassのコンセプトビデオからは、予測して必要な情報を提示することで、雑事を退け、本人の日常のマインドフルネスを向上させるといった、共有価値観が読み取ることができるわけである。
このようなコンセプトがわかれば、同社の他の実験中のサービスである、オートナビゲーションカーも、ユーザの運転という雑事を減らし、(運転が目的の人は別であろうが)、運転中のコミュニケーションや見える景色を存分に味わうための仕組みととらえることができるようになる。
さらに面白いことには、このGoogleの共有価値観は日本の禅に通ずる要素があるという著者の洞察である。すなわち、マインドフルネスは近年Googleを中心に流行となりつつあるが、日本の禅の思想がこれと類似した要素を多く持つ。
例えば、以下の曹洞宗関連ページから関連性を考えてみる。
禅の極意!!〜「不立文字」の世界〜
「禅生活とは作務(仕事)や食事や洗面などの日常生活の中の些事を、その些事を大事と悟らせること」と記されており、これは何気ない日常の重要性を改めて知ることに通ずることである。
また、「『甘い』ということを伝えるときに、いくら口で表現してもわからない。同じ砂糖の甘さでも白砂糖の甘さと黒砂糖の甘さは違うし、果物でもイチゴの甘さと柿の甘さは違います。この甘さを本当に知るには自分が味わってみる以外にはわかりようがない。(『言詮不及、意路不到』などという)」からも、日常の五感を通した実体験を重要視し、そのために座禅を行うことがわかる。
日本の禅の考え方はあくまでも、只管打坐、座禅といったメンタル面の強化を手段としてマインドフルネスの実現をはかるが、GoogleはGlassという技術を以て、同様の課題の解決に挑んでいるといえる。時代も場所も、何もかも異なる両者が、共有価値観という軸で比較されるとこのような類似性を持つことがわかる。
もはや、プラットフォームに限った話ではないと思うが、このようなサービスの背後にある重要な共有価値観を理解することの重要性や、共有価値観の普遍性について大変勉強になる一冊であった。