; oi: 「良い」研究テーマについて考えてみた

2015年7月18日土曜日

「良い」研究テーマについて考えてみた

研究テーマとは何か?

研究の目的は、新しい事実や知見・解釈といった知的コンテンツを生成することである。

研究者は全てについて研究できるわけではないので、何かしら研究するべき対象を絞る必要がある。そして、その絞られた条件や範囲の中で、新しい事実や知見の発見を目指し、日夜、調査・解析・実験または開発などを行っているのである。

私が関心があるのは、どのような観点で研究することを絞るべきなのであろうかという点である。今回はこれに関する現在の考えについて述べようと思う。

良い研究テーマとは?

どのような研究テーマを設定するべきなのであろうか。ここでは、研究テーマが満たすべき条件について考えてみる。整理すると以下の2パターンに大別できるのではないだろうか。
  1. 研究として成立するための必要条件
  2. 「良い」研究テーマとなる条件
以下にそれぞれについて説明する。

研究として成立するための必要条件

まず、研究として成立するための条件について考えると、以下の条件を満たす必要がある。
  • 新規性
    • ”新しい”の部分に対応する。当然のことながら、既存の事実や知見と差異がなければ、「新しい」事実・知見とはなり得ない。何を以て差異とするかは様々な意見があるようだが、差異を明示する必要があるという観点は変わらない。
  • 評価(証明)可能性
    • ”事実・知見”の部分に対応する。事実というからには再現性がある必要がある。特定条件下において再現できることを証明可能かどうか(評価精度についてはここでは言及しない)を考えておく必要がある。もし、原理的に評価(証明)不可能な場合、事実や知見は生まれないはずなので研究にはなり得ない。

「良い」研究テーマとなる条件

次に、「良い」研究テーマとなる条件については、さらに色々な観点が存在すると考えられる。今回は思いつく範囲で以下にまとめた。
  • 「良い」研究テーマ
    • 研究成果(得られた知的コンテンツ)が社会貢献につながる
      • 得られた知見の効果・情報量が大きい
      • 得られた知見の適用範囲が大きい
    • 知的コンテンツ生成コストが小さい
      • 実現可能性が高い
      • 研究に過剰なリソース(時間、金)を要しない
      • 研究者の知的関心が大きい(継続可能性大)


やっぱり新規性を見出す力が重要となる

いろいろと条件を挙げてみたが、やはり「新規性」を巧く説明するところが最も研究テーマ設定において肝となる部分であろう。これが完璧にできれば、後はひたすら作業するのみなので、研究がほぼ完了したといっても過言ではないのだろうか。

以下に、他のブログ等で記されている新規性の考え方について述べる。

引用1.
http://d.hatena.ne.jp/fukudakitchou/touch/20091126/1259243560

研究の新規性は、大きく四つに分けられる。
1.手法が新しい
工学系の研究では、最も一般的な新規性の出し方。
例えばN先生の過去の論文であれば、ゲーム理論とマルチエージェントシミュレーション、実験経済学のアプローチを統合的に用いて分析する、という手法自体が新しいということ。
2.対象が新しい
手法は全く新しくないが、それを適用する対象が新しいということ。つまり、既存の手法を新しい対象に適用している点で、新規性がある。
3.結果が新しい
手法も対象も一緒だが、結果が新しいということ。過去の結果を否定することで、新規性が出せる。
4.解釈が新しい
手法も対象も結果も一緒だが、その解釈が新しいということ。社会科学や人文科学の論文に多い。

引用2.

http://moroshigeki.hateblo.jp/entry/20101108/p2
学術論文における新規性とかオリジナリティとかについて、その辞書的な意味にとらわれて“これまでまったく存在していなかった説を他に依存せずに創造する”みたいに捉える学生がいるが、それはまったくの誤りである。学術論文においては、その存在意義や新規性などはすべて他人の口から語られなければならない。
ある領域についての先行研究を調査することによって、未解決の問題が見つかる場合がある。それは大概、複数の説が存在する(論文が批判しあっている)とか、効率が悪くてやろうと思ってもできないとか、誰かやってくれるといいよねーみたいに問題を投げっぱなし (^_^;; にしているとか、いずれにせよ先行研究自身が語ってくれている場合がほとんどである。先行研究が語っていない、問題だとすら思われていない部分を見つけ出して問題にしてしまう、という高等テクニックもあるが、これも間接的に先行研究がその問題の(現時点における)不在を語っていると言える。

引用3.

http://fujitalab.t.u-tokyo.ac.jp/announcement/message/

イントロがオリジナルか?
 仮にそのテーマがうまくいったとして、学会等で講演するときのことをイメージします。その時のイントロが、良く耳にする受け売りのような話から始まるようであれば、そもそもその研究はオリジナルな研究とは言えません。「イントロがオリジナル」=「誰にもない着眼」ですから、イントロをイメージすることは、自分の発想のオリジナリティーを判別する簡単な手段です。これは研究の途中で方向性を変える時もいっしょです。もっと良いイントロが話せると感じたときに研究テーマを修正することにしています。論文を書くときにイントロに困ったことはありません。はじめから出来上がっているのですから。

各論より総論
 総論は上流にあり各論は下流にあります。周囲を見ずに夢中で研究していると、気がついた時にはずいぶん下流に流されていたということは、上級研究者でもしばしば陥る失敗であります。学位論文の章立てをイメージした時、2章、3章と章が進むにつれ話が各論に入るようであればその研究はしりすぼみです。逆に、「前章の発見をさらに上位概念でとらえるなら…」と上流に向かって話が進むようであれば、研究は広がります。この上流に向かって泳ぐ努力は、回遊魚が一生泳ぎ続けるかのごとく研究者が研究者であるかぎり続けなければいけない努力です。なかなかたいへんですが、油断をせず、たえずこの努力を続けています。

なぜ研究テーマ設定は難しいか?

研究テーマがトップダウンで教授から与えられるような研究室や、課題が割と明確であり、時間と労力をかけ正確に作業できれば成果がでる類いの研究(これも重要)に従事する方は特に悩まないかもしれない。

しかしながら、一般的に、研究テーマ設定はとても難しい。

上記のそれぞれの要素について、基準や優先度が異なったり、不確定要素を含んだりする上、それぞれの要素を複合的に考えて判断する必要があるためであろう。

例を挙げると、生成コストの小さい小粒なテーマで研究成果を量産する、という方針の人もいるだろうし、インパクトのある本当に究明したい研究をいちかばちかで取り組む人もいるだろう。また、上述の引用の中にもあったように、何を以て新規性があるといえるかは研究者によって若干のズレがあるようである。「適用先が変われば新規性といえる」(いわゆる「○○やってみた」シリーズに近い)という方もいれば、「適用先の違い」だけでは研究ではなく、「適用先が異なることにより発生する問題を解決するための新しい工夫が含まれる」必要があると考える研究者も勿論多い。

このテーマ設定において、多くの関係者が納得できる形で議論を収束させ、指針・方向性を示せる人が、主に大学にて先生と呼ばれる人たちであろう。それほど、良い研究テーマ設定は困難であり、高度なスキルが必要となる。

どのように研究テーマの設定をするべきか?

では、最後にどのように研究テーマの設定を進めていけば良いのであろうか。

ポイントは上述の「新規性」をどう説明できるか、と「評価」をどうするかの2点であろう。研究テーマという俎上に上がるための条件であるからである。とはいえ、研究対象領域に関する知識がない場合、新しいかどうかの判断もつかないのは事実である。かといって研究対象領域の論文を読み漁ってから、新規性のありそうなところを研究し始めるというのもコスト大だろうし、いざデータを触ってみたら思ったのと違ったということはありそうである。

なので、「対象領域の理解」と「新規性のサーベイ」を並行して行いながら、新規性があり評価ができそうな領域に追加のリソースを注ぐということを繰り返す必要があるのだろう。いわゆる、段階的詳細化であり、データを触ると難しさがわかり、工夫が必要だと認識できるようになってくることがほとんどだろう。戦略のイメージとしては、新規性が出そうな領域を攻めるというよりは、明らかに既知の部分の探索を止めるという言い方のほうが近いのではないだろうか。

また、同時に懸念事項としては、対象領域ヒアリングや論文調査をしすぎることは、あまり良くない場合が多いということである。つまり、現場のことを聞き過ぎたり、情報を得すぎると、その世界が全てであると考えるようになる。目の前のその人を短期的に支援することは重要であるが、そこに執着しすぎてしまい、局所最適化解に落ち着く可能性が大きい。これは、自分自信の対象領域に潜む本質的な問題の理解が不足していることに起因すると考えられる。

今回、「良い」研究テーマ設定の方法論を考えたが、明確な解決策は見出せなかった。
引き続きこの点について最善策を考えていきたい。


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