何か理解した気にさせるというのは、原価のかからない価値提供であり、この類の知的価値を求める人は少なくない。先日たまたまお会いしたワイン営業の方は、来場者の目を引き、足を止めることはもちろん、「知的価値」を上手に提供することで、お客さんを惹きつける工夫をされていた。結果、私自身が上手に惹きつけられ、「知的価値」に対する対価という思いもあり、購入に至っていた。
営業の仕方というのは、いろいろあると思うが、商品のメリット(この場合でいうと、ワインの美味しさ)を話すことがオーソドックスな方法だと考えられる。しかしながら、商品の価値だけではなく、今回のように接客時に提供する価値について、フォーカスし、今その時に、どのような価値を提供できるかも非常に重要な営業スキル(購入に至るキッカケ)であると感じた。
本稿では、その際に得られた話の一部を備忘録としてまとめておく。
「甲州」ワインの製法の変化
「甲州」とは日本古来のブドウの品種のことである。しかしながら、この「甲州」によってつくられたワインは、これといって特長がなく、これまであまり人気がなかったそうだ。
1990年代に、フランスで確立されたシュール•リー製法を「甲州」ワインに適用することで、飛躍的な成長を遂げたようである。シュール・リー製法とは、ワインの中に澱を残したまま、一冬育成させせ旨味や味の厚みを出す方法である。長年の試行錯誤の後、日本のブドウ「甲州」によってつくられたワインは、いまや世界に勝てるワインへと成長しつつある。
ワインと料理の相性
いまや山梨では、自社農園にて「甲州」はもちろんのこと、「カベルネ・ソーヴィニヨン」や「メルロー」などの海外のブドウも栽培している。日本でこれらの品種を栽培することで、日本の食卓に並ぶ様々な料理と合わせられるようになってきているようだ。
例えば、「カベルネ・ソーヴィニヨン」という品種は、地域差はあるものの、赤ワインの中でも渋くて重めの印象を想起される方も多いだろう。しかしながら、山梨でつくられた「カベルネ・ソーヴィニヨン」ベースの赤ワインは、特に「和食」にあう味わいであった。特に「鶏の照り焼き」や「肉じゃが」といった、フランスの赤ワインだとちょっと違うし、かといって日本酒ともいまひとつ合わないような、和食の料理にぴったりあう印象である。
今回購入したワインのひとつは以下である。
オルロージュ 赤2013年720mlミディアムボディ
株式会社サドヤ醸造 オルロージュ 赤
オルロージュ 赤2013年720mlミディアムボディ
株式会社サドヤ醸造 オルロージュ 赤
「ワインの感想は言ったもん勝ち」
さらっと、このように大変興味深いことを話してくれた。以下は私の解釈である。
一般的な感覚であれば、あるワインの味というのは、ソムリエやそれに類する舌の持ち主は誰もが似たような味の説明をするものだ、と思っている(おそらく、あまりズレないのは事実であろう)。しかしながら、実際はワインは色々な味の側面を持つため、大抵の感想がどこかの側面に当てはまることが多い。また、味や香りという極めて主観的な要素を多分に含む。これらの理由から、素人ながらに、率直に感じたことをそのまま言っても、見当違い言葉滅多にないし、否定されることはまずもってない。
このような、ワインの味の特徴から(その他の料理全般言えるかもしれないが、ワインは特に様々な味や香りの要素を含むため。)、ワインの味の感想は先に発言した方が良い、というのが本主張である。誰かの感想のあとにその感想と異なる意見をはっきりと発言するのは気が引けてしまう。対して、先に感想をいう場合は、前述の理由から、大体感想自体は真であり、主観的な要素を否定はされにくいため、好きなことを言えてしまう(言っても特に損しない)。
少し味にうるさいお客さんが来た際は「ワインの感想は言ったもん勝ち」は有効に働くそうである。先に色々言われてしまうと収拾をつけるのが困難だからであろう。
このような営業さんの失敗経験や苦労から学ぶことはとても多い。
さいごに
知識というストックから、今まさに対面している相手の知的好奇心をくすぐることは、何もワインの営業に限った話ではなく、日常でコストをかけずに価値提供できることである。自分も楽しく相手の知的好奇心を満せるようになりたいものである。
0 件のコメント:
コメントを投稿